避妊手術
その他の各種症例の紹介
避妊手術
愛犬・愛猫の避妊手術をすべきなのか迷っている、メリットとデメリットを知りたい、という飼い主様の声を多く耳にします。
今回は、犬と猫の避妊手術について説明します。
手術の内容
避妊手術は、繁殖に重要な役割を持つ卵巣および子宮を摘出する手術です。
手術方式は、卵巣のみを摘出する「卵巣摘出術」と子宮と卵巣を摘出する「卵巣子宮摘出術」があります。
手術の内容は、全身麻酔下にてお腹を切開し、子宮の血管や間膜を処理しながら①「卵巣と子宮」を摘出するか、②「卵巣だけ」を摘出します。
①と②の術式に関して、当院ではほとんどの場合②を選択しています。「子宮を残して大丈夫?」と思うかもしれませんが、どちらの術式でも差はないと言いう論文がたくさん出されていますので、手術侵襲が少なく、術創が小さい②の方法を選んでいます。
・卵巣子宮摘出術または卵巣摘出術を受けた健康な犬における手術変数と術後短期合併症の比較
・犬の卵巣摘出術と卵巣子宮摘出術の合理的な選択: 各手術の利点についての考察
症状
未避妊の犬で多く見られる発情に関する症状は、食欲のムラ、巣作り行動やおもちゃを子供の様に抱え攻撃性が増加するような行動異常、乳腺からの乳汁分泌、陰部からの出血です。
特に未避妊の犬の場合では、黄体期に発症するリスクが上昇する子宮蓄膿症について注意が必要です。
・子宮蓄膿症とは
子宮蓄膿症とは、子宮内に膿がたまる疾患で、進行すると敗血症になり命を落とす危険性のある疾患です。
子宮蓄膿症の症状は、食欲不振、元気消失、陰部から膿が出るなどがあげられます。
未避妊の犬で陰部から出血があった後、具合が悪そうであれば早急に動物病院を受診することをおすすめします。
また、猫の場合は、発情期になると特徴的な鳴き声になる、家から外に出てしまって妊娠したなどがあげられます。
避妊手術のメリット
避妊手術は、繁殖に必要な生殖器を摘出するため無計画な繁殖を防ぐことが可能です。
また、卵巣腺癌などの卵巣疾患、子宮蓄膿症などの子宮疾患、偽妊娠などのホルモン関連疾患の治療および予防だけでなく、乳腺腫瘍のリスク軽減にも繋がります。
乳腺腫瘍の発症リスクについては、発情が訪れた回数に影響を受けるためなるべく早期に避妊手術をすることが推奨されています。
避妊手術のデメリット
避妊手術は、外科的に生殖器を摘出する不可逆的な処置であるため、繁殖を再度望むことは不可能です。
繁殖を望んでいる動物の場合は、避妊手術を行う時期をよく考慮しましょう。
また、手術は全身麻酔をかけて行うため、一定の麻酔リスクが存在します。
一般的に若く健康な犬猫であれば、麻酔リスクは低く、高齢や疾患を持っている犬猫の場合は、麻酔リスクも上がります。
避妊(卵巣子宮全摘出)手術の合併症は、尿失禁と肥満が報告されています。
尿失禁については手術後の「ホルモンの乱れ」や、「子宮体切除部位の膀胱への癒着」から発生する場合があります。「ホルモンの乱れ」の場合は一般的に内服薬による治療で症状は緩和される事があります。しかし、子宮体の癒着の場合は、再手術で癒着を剥離しても尿漏れが改善しない場合がありますので、当院では「卵巣のみ摘出」の避妊手術を行っています。
また、避妊手術後は食欲が増加し基礎代謝も低下するため、手術前と同じフードを同じ量食べていても体重が増えることがあります。
避妊手術後はカロリーの低いフードへ変更し、適切な体重維持を心がけましょう。
メリット | デメリット |
・望まない妊娠を避けることができる ・偽妊娠を防ぐことができる ・乳腺腫瘍の予防※重要 ・女性ホルモンが原因で起こる病気を予防できる |
・繁殖を再度望むことは不可能 ・全身麻酔のリスク ・太りやすくなる |
まとめ
避妊手術は、繁殖に重要な役割を持つ卵巣および子宮を摘出する手術です。
主に避妊手術を行う目的は「無秩序な繁殖を防ぐこと」「卵巣、子宮などの疾患、乳腺腫瘍を予防すること」です。
手術方式は、卵巣のみを摘出する「卵巣摘出術」と子宮と卵巣を摘出する「卵巣子宮摘出術」がありますが、後者は、合併症としては尿失禁が報告されています。
また、どちらの術式を選択しても、肥満になる確立は70~80%と言われています。
当院では、避妊手術の体にかかる負担を最小限にできる腹腔鏡の設備を有しています。
避妊手術についての相談や腹腔鏡での手術を希望される場合は、お気軽に当院までお問い合わせください。
参考図書
SMALL ANIMAL SURGERY THIRD EDITION ;interzoo
BSAVA 小動物の繁殖と新生子マニュアル 第二版;学窓社
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