CUUN 2020年5月号「肉球について」
初めまして。獣医師の佐々木将雄です。日々の診療の中で、病気についてなるべく多くの情報を説明して理解頂き、診療を行っていますが、その反面、飼い主様の目線からペットの習性や行動についてたくさんの情報を頂くことができます。この情報は非常に大切なもので、私たち獣医師が想像もしていない考えや悩みを知ることもあります。獣医師は病気だけではなく、ペットの生活全体を把握する必要性を常に感じています。臨床治療を始めて28年目になります。飼い主様の「生」の声を大切にして診療をしている中、いろんなご相談も受けています。
今回はいただいた「あんちゃん」のお悩みは、いつも足先を舐めていて、毛もハゲてしまい湿っているので匂いも気になり頻繁にシャンプーをしていました。
症状として、皮膚の角質はゴワゴワ・カサカサで硬くなってる・・・ということですね。
症状を伺い、シャンプーのし過ぎで、正常な細菌まで殺菌して、細菌叢のバランスが崩れているようですね。また、それが原因と思われ、皮膚の抵抗力が下がり、痒みが出ます。そこに口で舐めた口内細菌が付いて殺菌が繁殖します可能性があります。
「あんちゃん」のようなお悩みを持つ飼い主様が多いので、「肉球」についてお伝えします。
意外なことに、愛犬の肉球の匂いをかいでいる飼い主様が多いことをご存じでしたか?何とも言えない香ばしいキノコのような香りがしますね!実はその香ばしい匂い?はペットの皮膚や肉球についている常在菌(自己には良い菌)や、真菌(カビ)、キノコ菌などの混合臭と言われています。ですが中には土壌中にいる「シュードモナス菌(緑膿菌)」という悪い菌が付いていることもあります。キノコのような臭いを放つ食中毒菌です。愛情たっぷりに接したい気持ちは分かりますが人間や動物にとって注意が必要な菌もありますので、人間もワンちゃんも口にしないように心がけてください。
【肉球は頑張り屋さん】
肉球の役割をご存じですか?肉球はクッションの機能があり、熱や刺激、歩行時の衝撃から骨や関節へお負担を軽減しています。人間でいうと靴や靴下を履いているような感じですね。足を守ることが大前提になり、肉球の構造はいくつかのパーツに分かれていて
体温調節もしてくれます。愛犬の皮膚には人間のような汗腺が無いため、ほとんどは口から「ハーハー」という呼吸で水分を出して(不感蒸泄)いますが、肉球や鼻先は少しだけ汗をかくことができ、体温を下げる役割も担っています。
【肉球の日々のチェックが必要です】
「肉球」は歩くたびに汚れたり、濡れたり、常にバイ菌と隣り合わせです。可愛い愛犬の健康を見守るうえで、見えにくい場所だからこそ、毎日のチェックが必要になります。肉球や足先の周辺をしつこく舐めていて、不自然に思い肉球をのぞいて見ると、治療が必要な状態になっているケースもありますので、触ったり、見たり、匂いを嗅ぐのも病気を未然に防ぐことにもなります。
【肉球は健康のバロメーター】
「みずみずしく、柔らかい」肉球は健康と言われますが、触ったときに「カサカサ」したり、「ひび割れ」「炎症」「痛み」「色が白っぽい」といった症状があれば、早めにかかりつけの動物病院に相談してください。ひどい場合は、内科疾患(貧血症、心臓病、腎臓病、肝不全、免疫疾患、など)、火傷、アトピー性皮膚炎、寄生虫感染症、細菌性・真菌性皮膚炎が疑われることがあります。昔から、「動物は舐めて治す」言われてきましたが、最近は「舐めていたら病気のサイン」と飼い主様にお伝えしています。
【肉球のケアはどうしたらいいのでしょうか?】
散歩に出かけたあと、帰って家の中に入る前に足先を洗ったり、拭いたりする方がほとんどですね。そんな時、汚れやバイ菌が付いた足先をペット用の「手足用洗剤」や「アルコール除菌剤」などを使用していませんか?商品の成分表示を確認して、「界面活性剤(石油系)、pH調整剤、香料、防腐剤、アルコール類」等が少しでも入っていたら使用を控えたほうがいいでしょう。消費者には含有量が分からないようになっています。人間でさえ使用には注意が必要なものばかりなので、小さなペットにはかなりのダメージになります。
このような添加物は外敵から身を守る皮膚の「バリア機能」を崩壊してしまいます。アルコールや塩素、イソジンなどの消毒剤も同様に、悪い菌と一緒に良い菌も殺してしまうのです。少しのダメージなら皮膚にも修復する機能が働きますが、日々、「シュッシュッ」と継続使用することで、皮膚は焼け野原のようになり、悪い菌が付着すると一気に増殖して、バリア機能が弱った皮膚から細菌やウイルスが侵入してしまうのです。ステロイド塗布剤や界面活性剤入りの化粧品を使用した時も同じ皮膚の症状になります。
では、どのような物を肉球に使用すればいいのでしょうか?除菌するだけでなく皮膚に優しい物でなければなりません。それには薬品や添加物が含まれない天然成分であることが望ましいです。先人の知恵で、昔から使われている、梅干し、はちみつ、緑茶、アオサ、ショウガ、など殺菌作用があることが知られていますが、実際に塗ることはお勧めできません。ところが近年、抗ガン作用も認められ、注目されている天然成分の植物があります。長年多くの大学や研究機関で研究されてきた沖縄に生息している「月桃」というショウガ科の植物です。塗ることも飲むことも可能な成分である月桃ポリフェノールは常在菌を保護して良い菌を残し、悪い菌だけを殺菌することが知られています。また、20種類のアミノ酸も含まれており、バリア機能の回復、phや油分の調整、抗炎症作用も認められています。この成分は獣医師により、臨床治療の現場で安全に使用できることが検証され、副作用を心配することの無い「獣医師推奨品」として処方されている製品もあります。
家族の一員である大切なペットには、治療実績のある安全な製品を日々のスキンケアに使用して頂き、病気にならないための体作りに努めて頂きたいと考えています。
佐々木動物病院 院長
ホーチミン佐々木動物病院(元ホーチミン国家農林大学付属動物病院) 院長
佐々木将雄