CUUN 2021年1月号「歯周病・歯のケア」
こんにちは。獣医師の佐々木将雄です。新年を迎え、慌ただしい日々を過ごしていることと思います。ペットも家の中では暖かく、外に出ると寒さを感じ、高齢なほど寒暖の差に対する調節が難しくなります。我々でさえ体調を崩す時期です。動物種や年齢など考慮してペットの目線で健康管理の見直しをお勧め致します。
今回は、愛犬モコちゃん(女の子8歳 元旦生まれ!)の飼い主様からのご相談で「歯磨きの時に出血して歯肉炎になり、悩んでいたようですがアルピニアを使用して改善しました。歯肉炎で悩んでいる飼い主様が多いので歯のトラブルの症状、改善方法、ケア、を教えて下さい」とご依頼がありましたので、詳しく説明させて頂きます。
【ペットの病気で発症率が一番高いのが歯周病】
ペットの歯肉炎・歯周病については、みなさんも関心が高いかと思います。「CUUN6月号」でも「歯垢・歯石・口臭」のご相談があり、お答えさせて頂きましたが、今までも、歯や皮膚に関するご質問がかなり多いと感じており、いかに日常の生活でこれらの病気に遭遇する機会が多いのかがうかがえます。実際、当院に来院される犬のおよそ8割、猫の5割は、なんらかの歯科的疾患を抱えているのが現状です。歯石が付着しているか否かで寿命が20%も変わってくると言われています。あんなにくさい歯石が付いていたり歯肉炎になっていれば寿命が短くなるのも無理がありません。炎症や歯石の付着は症状が悪化すれば化膿して細菌だらけの口の中になり、その菌を毎日飲みこんでいることで、消化器疾患や胃腸障害を起こし易くなり、ひどい場合は敗血症に繋がり、心不全や腎臓、肝臓に障害を与え、多臓器不全になる事もあります。ペットの高齢化に伴い、様々な病気が増えているなかで歯周病はほかの疾病を招く、深刻な病気のひとつになってきています。
こころが、誰もが知っている病名にもかかわらず、ペット医療の多くの科の中でも技術的においても、治療機械の開発などの観点からも、他の専門分野と比較すると遅れていると言われているのが現状です。またそれと同時に、飼い主様のペットへのデンタルケアの取り組みにおいても遅れています。歯ブラシを使って行っているブラッシング1つ取ってみても、「口の中を見せない、さわらせない、噛まれてしまう」といった問題がコンプライアンスの低下を招き、飼い主様がペットのデンタルケアを遠ざけてしまう理由になっています。
【歯肉炎の発生と歯周炎の違い】
歯肉は通常、物理的な傷が付いたり、口腔内の細菌叢に異常が起きなければ、粘膜のバリア機能が健康に働いているため、炎症は起こりません。ペットは食事をする時にほとんど咬まずに大量の唾液と一緒に食事を飲み込んでいますが、固いものは奥歯(後臼歯)で噛んでから飲み込みます。しかし、食べ物の残渣はどうしても残ってしまいます。食後に、人間のように頬っぺたと歯肉のあいだの食べ残しを自力で取り除いたり、つまようじを使ったり、水で流し込んだり、ハミガキもしませんので、それにより残った残渣に雑菌が繁殖して歯垢となり、歯と歯肉の境目に歯石が形成され始め、歯肉炎となります。
食後に唾液中の糖タンパクが歯の表面に付着すると歯の表面に「ペリクル」という被膜が出来ます。このペリクルは例えば、スケーリングをしてせっかくきれいにしても、数秒~数十秒で形成されてしまいます。そのペリクルが出来ると細菌が付着しやすくなり、ジンジパリス菌などの細菌が付着すると歯垢(プラーク)が出来てしまいます。歯垢が歯の表面に付くと5時間前後で「歯肉炎」が発生します。
この歯肉炎の原因となる歯垢に唾液中のカルシウムなどが取り込まれ石灰化すると、歯石が形成されます。動物の口の中のpHはアルカリ性のためたった数日(犬:3~5日間、猫:7~9日間、人:20日間)で歯石が形成されてしまいます。その後、歯周ポケットに深く入り込んだ歯石により、好気性細菌が減って嫌気性細菌がさらに増殖します。特に『ポルフィノモナス・ジンジパリス菌(ペットで1番多いの歯周病菌)』が最も悪い菌と言われています。その歯周病菌から産生されるプロテアーゼ(蛋白分解酵素)により、「歯肉」や「歯槽骨」が溶けて歯がぐらぐらして抜けてしまいます。歯肉ポケットに歯垢や歯石が蓄積し、更にポケットが深く進行すると歯肉は退縮し、歯垢細菌と炎症細胞から出る酵素によりコラーゲンが分解され、歯根の露出を起こし「歯周炎」と悪化していきます。これは総称して「歯周病」と呼びます。
【歯肉炎の治療】
歯肉炎の原因のほとんどは歯垢や歯石から発生します。歯に歯石が付着しているという事は、強固な細菌が口腔内に常駐している事と同じですので、歯は常に危険にさらされている状態になります。まずは歯垢や歯石を取る治療を優先させます。
軽度の場合は、ハンドスケーリングを実施しますが、完全に汚れを落とすことは難しく、細かいい部分は残ってしまい、一時的に部分の汚れを落とす処置になります。
重度の場合は、抜けそうになっている歯を抜歯したり、その抜けた後のポケットに有形皮弁で歯肉を移植したり、炎症がひどい歯茎を切除して縫合したりします。その際、超音波スケーリング、ポリッシング処置を行いますので口腔外科の領域になり、出血や痛みが発生するため、かならず全身麻酔が必要になります。
【歯肉炎にはインターフェロン治療もある】
近年、イチゴが犬の歯肉炎治療に活用されていることがTVでも放映されました。遺伝子組み換えのイチゴから製造した医薬品について製造販売の医薬品承認は世界初となるようです。犬用での販売ですが、塗ると歯肉炎を軽減する効果があるととのことです。免疫機能を持ったタンパク質インターフェロンをつくる遺伝子を犬から抽出し、それを組み込んだイチゴを育て製品化したものです。当院は良質なサプリメントで優先した治療を行っていますので、「遺伝子組み換え製品」と聞いただけで使用することを考えていません。
【歯と歯肉のお手入れの前に】
まずはお口を触らせてくれるかを見てみます。ペットに歯石が付き始めるのは3歳ころからですが、その頃から歯磨きを始めようとしても、なかなか口の中をさわらせてくれません。口や鼻の周りを触られることは基本的に嫌がりますので、ペットと遊んでいる時やおやつや食事を与える時に、口や鼻を触るようにして慣れさせて下さい。ペットの注意が飼い主様の手や食べ物に行っている時がチャンスです。そして、徐々に指を口の中に入れていきます。食事を指に塗って舐めさせて慣らすことが比較的慣れやすいと言われています。慣れてきた段階で、濡れたガーゼを指と一緒に入れ、少しずつ歯を擦り始めます。慣れてきたら、歯ブラシで優しく磨いてください。最初は2~3日に1回でもいいので、少しずつ、何日も、時間をかけて慣らしていく事が必要になります。
【歯肉炎にならないデンタルケアとは】
年齢によって口腔内ケアのやり方を変える必要があります。歯石が目立つのが3歳からと言われていますが、それまでは汚れもほとんど無いので、口に指を入れて擦る事に慣らして、予防用ブラシを使用してください3歳~6歳では、よだれの量が減り始めますので、ドライマウス対策も考慮して口を潤わせながらの歯磨きが必要となります。歯の表面から歯と歯の間、歯の裏側、歯と歯肉の境目をみがくのが理想です。6歳からは治療用歯ブラシがメインとなります。ブラッシングは歯周を衛生的に保ち、圧力によって歯肉を刺激して、血液の流れを促進します。それによって歯肉の粘膜のバリア機能が正常化され常在菌が優位になり、歯周病菌の侵入を防ぎます。
今回も「月桃・へちま・温泉混合液」をご紹介致します。6月号でもお話ししましたが、ポルフィノモナス・ジンジパリス菌の殺菌データを「月桃」は取得していることです。天然成分の月桃ポリフェノールはバリア機能の回復、抗炎症作用があります。ドライマウス対策やお口を触らせてくれなくても、直接スプレーをしたり、ハミガキガーゼに染み込ませたり、飲み水、食事にスプレーしてお口の中に入れることも可能です。
家族の一員である大切なペットには、治療実績のある安全な製品を日々のオーラルケアに使用して頂き、病気にならないための体作りに努めて頂きたいと考えています。