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CUUN 2020年11月号「フケを伴う皮膚炎」

こんにちは。獣医師の佐々木将雄です。秋から冬へと移り変わる季節、愛犬は体調を崩しやすくなっています。循環器障害や脳梗塞で倒れたり、風邪などの呼吸器障害で来院も増えています。飼い主様は愛犬の健康のために、日々の気温や気圧の変化、天候予報などに注視するよう心がけてください。
今回のお悩みは、愛犬「のんちゃん(8歳女の子)」の飼い主様から「皮膚が弱くフケの症状を伴う皮膚炎が治らない」と伺いました。先月はシニア期の「抜け毛」についてお伝えしましたが、新陳代謝が活発な若齢期と違って、シニア期の「フケ症」には皮膚病や内科疾患が関係する場合もあるので、症状による内科的な診断も含めた総合的なケアをお伝えします。

【フケにはどんな原因があるのでしょうか?】
フケが発生する原因は「生理的なもの」と「病気によるもの」の2つに分けられます。

「生理的な原因」
皆さんも髪質や肌にあっていないシャンプーを使い続けると、頭皮に炎症や痒みがでた経験がありませんか?適切でないシャンプーは皮膚の乾燥や痒み、ストレスによる心因的要因でフケの増加につながります。同じように、脂性体質の愛犬に乾燥肌用のシャンプーを使い続けると脂っぽさやフケの発症が改善されるどころか悪化傾向に。また、皮膚病の愛犬に投薬や薬用シャンプーの治療を行い、症状が改善しても同じものを継続すると、肌表面の適度な脂質をさらに取りのぞいてしまい、バリア機能が破壊されてしまいます。その結果、細菌や真菌の(カビ)感染を受けて、皮膚のダメージと炎症を起こし、フケが再発生する可能性もあります。治療後や改善後は、愛犬の肌にあうシャンプーについて獣医師に相談してみてください。症状が落ち着いた後は、必ず皮膚の肌質にあったものを選び、再発防止に努めましょう!
また、ストレスが加わって免疫力や皮膚のバリア機能が低下している場合、皮膚炎やアレルギー性疾患が誘発され、皮膚のコンディションに悪影響を与えます。このような状況において、精神的緩和が必要となるため、定期的に愛犬とアイコンタクトをとりながら話しかけたり、リラックスをさせながらブラッシングやマッサージを心がける「ホリスティックケア」をおすすめします。

「病気による原因」
何らかの原因でフケが増加したり、日々のスキンケアに反応しない場合は、内科疾患などの病的要因が考えられます。「病気なの?」と、思い判断できない場合は、すぐに動物病院に受診して、獣医師の指導に沿った治療を優先してください。ここで4つの症状別に事例をご紹介いたします。

①<内分泌性皮膚疾患>疾患のなかでも甲状腺機能低下症は、フケが目立つ病気です。6~10歳齢の中高齢に発症が多く、甲状腺ホルモンの産生が不足する病気です。症状は、ふけ症(角化異常)、うす毛(薄毛)、抜け毛(脱毛)、あぶら症(脂漏症)など。治療はレボサイロキシンを(甲状腺ホルモン製剤)投与しますが、一時的な改善をしても完治は望めないので継続的な投薬が必要となります。
②<寄生虫>感染症でフケがたくさんでる主な原因は、ノミ、シラミ、ツメダニ、ニキビダニ(毛包虫)、疥癬症など。ニキビダニは根治が難しい場合もありますが、基本的に完治します。駆除薬を投与して治療や予防を行います。
③<真菌症>糸状菌やマラセチア菌の感染が原因で、部分的から広範囲に毛が抜けて、大きめのフケが特徴です。治療には1~2ヶ月かかることが多く、人に感染する真菌もありますので手洗いや環境の消毒などが必要です。
【アトピー・アレルギー性皮膚炎】草木の花粉、食べもの、ハウスダスト、カビなどに対してアレルギーを持ち、体内にアレルゲンが入り攻撃する免疫反応が起こって、痒みを引き起こす化学物質が放出されます。その結果、痒みが強くなってかきむしり、皮膚が荒れてフケが発生します。アレルゲン除去食、投薬、塗布薬、薬用シャンプーで治療します。
④<脂漏(しろう)症>フケがでる「乾性脂漏症」と、皮膚がベタベタする「脂性脂漏症」があります。乾性脂漏症は、皮膚から水分が大量に蒸散し(体内の水分が水蒸気になって外に発散すること)水分量が不足されて徐々にターンオーバーが上手くできず、フケが多くなります。保湿剤を使い、蒸散する水分をしっかり補いながら皮膚のターンオーバーを正常にもどす治療を行います。

【人間のフケとの違い】
フケは、古くなってはがれ落ちた皮膚の角質が主成分です。角質層が10~15層の人間と比べると、愛犬は3~5層と薄いので剥がれ落ちる角質層が少なくフケは目立ちません。しかしながら、愛犬は全身に被毛が生えて毛根が多いため、表皮が薄くても皮膚のコンディションの悪化によって、フケの量は増加してしまいます。
愛犬は汗をかかないので、皮脂腺が過剰生産を始めるだけでもフケの要因に。また皮脂腺は、皮膚を保護して栄養を与える脂を生産する役目を担っています。過剰な脂分は皮膚や毛根を刺激することで皮膚のカサツキが増加し、通常よりも大量にフケが発生して剥がれ落ちます。

【ペットのターンオーバーとフケの関係】
美容に興味のある方は「ターンオーバー」をご存知だと思います。ターンオーバーとは、皮膚の新陳代謝のサイクルで、古い細胞が剥がれ落ち新しい細胞に生まれ変わることです。人間のターンオーバーは約28日といわれ、愛犬のターンオーバーは約20日で細胞が生まれ変わります。皮膚が正常に代謝しているかぎり適量のフケはでますが、目立つことはありません。
また、人間の皮膚は弱酸性に(pH5.5)対し、動物はアルカリ性(pH7.5)で、細菌などが増殖しやすく汗腺が(エククリン腺)ない皮脂腺のみの(アポクリン腺)構造になっているため、雑菌や汚れが皮膚にたまりやすくなります。そのため愛犬には、日頃のブラッシングや定期的なシャンプーなどのスキンケアが大切になります。

【乾燥肌に油分は潤わず!本来油分は皮下から湧きでる】
フケの原因は、皮膚の乾燥と思っている方が多く、オイル系の保湿剤やシャンプーを試す飼い主様がいますが、それは大きな間違えです。皮膚はみずから作りだした「自家保湿因子」以外、すべて異物とみなします。過剰な油分は、皮膚を乾燥させてバリア機能の破壊や毛穴の炎症による色素沈着で黒ずんでしまします。人間は「シミ」になる状態です。皮膚の表面上、ツヤツヤ・もっちりした見た目よりも、表面が少しサラッとしたぐらいの皮膚の方が最適なpHとバリア機能を維持できている状態です。「保湿」は塗って補うのではなく、『肌が潤える環境を整える』ことです。
また、皮膚の保湿成分は「自家保湿因子」というアミノ酸の分子が結合したもので、水やオイルとは全く成分の構造が違うため、オイル系などを皮膚の上から塗布してもアミノ酸の分子結合を壊す原因になります。アミノ酸の分子結合が正常に機能していれば必要な油分は皮膚の下から角質に補充されるのです。
そこで今回も「月桃・へちま・温泉混合液」の投与や塗布を推奨いたします。「自家保湿因子」と同成分のアミノ酸が20種類すべて含まれているので、皮膚への負担が軽減され、毎日のスキンケアをより適切なものにして、フケの予防や改善へ導いてくれます。大切な愛犬には、治療実績のある安全な製品を日々の皮膚ケアに使っていただき、病気にならないための体づくりを努めていただければ嬉しいです。

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