消化器…胆のう疾患
その他の各種症例の紹介
胆泥症・胆石症
愛犬や愛猫に嘔吐、食欲不振、黄疸(おうだん:皮膚や粘膜、血清などが黄染すること)などが見られたら、胆泥症・胆石症という病気である可能性があります。
ここでは、そんな犬と猫の胆泥症・胆石症の症状、診断方法、治療方法、飼い主が気をつけるべき点について説明します。
疾患の症状
胆泥は、犬と猫では日常的に観察され、コレステロール結晶、胆汁色素の沈殿物、ムチン、胆汁塩、などの複合体から構成されています。
胆泥は、犬では重要な所見とは捉えられていませんが、猫では血液検査の肝臓指標の上昇と関連があるとされています。
胆石は、主に犬で観察され、胆嚢炎(たんのうえん)と関連性があるという報告があります。
胆石の症状は、症状を示さず無症状であることもあります。
症状を示す場合は、嘔吐、食欲不振、黄疸など胆管系・消化器疾患が現れます。
症状が現れている場合は、他の疾患の可能性もあるため、総合的な診断が必要です。
愛犬愛猫にこれらを疑う症状があれば、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
診断方法
胆泥、胆石の診断では、以下のものを行います。
・身体検査
獣医師が腹部を触って、しこりや異常がないかを確認します。
・血液検査
血液検査により、胆嚢に問題がある可能性のある肝酵素の上昇を調べます。
・エコー検査
胆泥はエコー検査で白い沈渣として描出され、体位によって変動し流動性のある物質として観察されます。
また、球状の胆泥が、濃縮された胆汁の集積によって形成され、胆嚢や胆管内に観察されることもあります。
胆石は、主に犬で認められ、エコー検査で大きさ、数、形が様々な白い構造物として認められます。
・X線検査
通常胆石はX線不透過性のためX線検査でも確認されることがあります。
この写真は、
2023年1月15日に開催された動物臨床医学研究会 合同カンファレンス『月桃含有サプリメントで改善した胆泥症または胆嚢粘液嚢腫の犬10例』でも使用されています。
治療方法
今までは、基本的に無症状の場合は、経過観察となるケースが多く、犬と猫の胆泥および胆石は、閉塞や感染を起こして症状が発現しない限り、治療や予防をしない傾向にありました。
しかし、当院ではアルピニアを2017年から多くの皮膚や内科疾患に使用してきました。それまでは年間約10件の胆嚢摘出施術を実施してきましたが、アルピニア使用後から、長期にわたり、胆のう全摘出手術が0件を維持しています。最初の数年間は、手術件数が極端に減少したのだろう…と、簡単に考えていましたが、ここまで「0件」が続くと、アルピニアの使用によるものであると考えざるを得ないと考えています。
「アルピニアを多くの内科・皮膚疾患で使用することで、胆嚢疾患とそれにまつわる手術を極端に軽減しているのではないかと推測しています。」
症状
嘔吐、食欲不振、黄疸などの症状があり、胆石が疑われる場合は、膵炎や腸炎など、他の疾患の可能性を除外することで疾患を特定します。
総合的な判断が必要となることが多く、診断することが非常に難しい症例が多く存在します。
胆泥や胆石が病気の原因である場合は、内科的治療の内服薬に対する効果が乏しいケースもあり、この場合は、外科的治療の手術が選択されることがあります。
周術期管理(手術が決定した外来から入院、麻酔・手術、術後回復、退院・社会復帰までの、手術中だけでなく手術前後を含めた一連の期間のこと)の難しい外科手術ですが、外科的治療行うことで原因を取り除く効果は大きく期待されています。
飼い主が気をつけるべき点
愛犬愛猫の胆泥および胆石を指摘される多くのケースは、健康診断時が多いと考えられます。
定期的な健康診断で偶発的に発見された場合は、今後症状が現れることに注意して愛犬愛猫の健康管理をしましょう。
健康管理の具体的な内容としては、規則正しい食事を与える、運動を行うなどが挙げられます。
無症状の場合は、特別な治療は必要なく経過観察ですが、嘔吐、食欲不振、黄疸などの症状がある場合は、治療が必要です。
愛犬愛猫にこれらを疑う症状がみられたら、胆泥、胆石だけでなく他の疾患の可能性もあるため、早めに動物病院を受診することをおすすめします。
愛犬愛猫について気になることや胆泥、胆石の治療法について不明点などがありましたら、当院までご相談ください。
胆嚢粘液嚢腫
犬と猫の代表的な胆肝系疾患のひとつに胆嚢粘液嚢腫(たんのうねんえきのうしゅ)があります。
この病気は、胆嚢に粘液が溜まり、腫れてしまう病気です。
無症状の場合も珍しくありませんが、元気そうに見えても胆管炎や総胆管閉塞、胆嚢破裂などが起こるリスクが高く、特に胆嚢破裂をした場合、すぐに緊急治療をしても亡くなってしまう場合もあります。
今回は、犬と猫の身近な病気のひとつである胆嚢粘液嚢腫について説明します。
疾患の症状
胆嚢粘液嚢腫の症状は、食欲不振、元気消失、嘔吐、黄疸など様々な症状が出ることもありますが、無症状の場合もしばしば存在します。
胆嚢内の過剰な粘液貯留により胆嚢破裂を起こしている場合は、腹膜炎へと進行し症状は重篤化する傾向があります。
シェットランド・シープドッグ、コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザーなどの高脂血症を起こしやすい犬種での発症事例が多いと言われていますが、中年齢から高年齢のどの犬種もなり得る病気です。
また、膵炎、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病といった他の併発疾患によって引き起こされる脂質代謝異常との関連性も示唆されています。
現在は無症状であっても、ある日突然、粘液の過剰貯留により胆嚢が破裂するケースもあるため、リスクの高い犬は特に注意しましょう。
診断方法
胆嚢粘液嚢腫の一般的な診断方法は、エコー検査と血液検査で行います。
診断には、エコー検査による胆嚢の評価が必要であり、最も有効な手段です。
エコー検査では、通常であれば空洞になっている胆嚢内部にキウイの輪切りのような特徴的な所見がみられます。
この胆嚢内容物は、通常の胆泥とは異なり、流動性がなく胆嚢内に蓄積し、著しく胆嚢を拡張させます。
血液検査は、肝酵素や総ビリルビンの上昇がみられる傾向があり、全身の状態を確認することに有効です。
すでに症状が現れている場合は、速やかな検査を推奨し、また、無症状である場合も多くあるため、中高齢のリスクのある好発犬種では、定期的な健康診断を行うことをおすすめします。
アルピニア 経口投与のみ 2年後
胆嚢粘液嚢腫 → 胆泥症
治療方法
治療方法は、内服薬による内科的療法と胆嚢摘出術による外科的療法があります。
一般的に内科的療法の治療成績は低いため、食欲不振、元気消失、嘔吐、黄疸などの明らかな症状を示す症例は、胆嚢摘出術の外科手術が推奨されます。
外科的治療の胆嚢摘出術は高い効果が期待できますが、周術期(手術が決定した外来から入院、麻酔・手術、術後回復、退院・社会復帰までの、手術中だけでなく手術前後を含めた一連の期間のこと)の死亡率は高く、管理が難しい手術とされています。
しかし、難しい周術期を乗り越えた症例では、長期の良好な予後が得られるため、現在は無症状であっても将来的なリスクを考えて外科手術を選択するケースもあります。
ただ、当院では手術をしない選択肢として、INSIVO株式会社製の「アルピニア」の経口治療を推奨しております。23年1月25日の公益財団法人 動物臨床医学研究会 合同研究カンファレンス
でも1例の発表をしましたが(https://officesasaki.co.jp/2023/02/17/202302/)、『月桃、へちま、玉川温泉混合サプリメント [アルピニア]』を経口投与することで、今までに胆のう粘液嚢腫3例が改善、完治しております。
手術適応とされてきた症例が経口投与のみで改善することは、外科中心であった胆嚢粘液嚢腫治療に改革が起きたことになります。
飼い主が気をつけるべき点
胆嚢粘液嚢腫の症状は、食欲不振、元気消失、嘔吐、黄疸など様々な症状を示しますが、無症状の場合もしばしば存在します。
現在は無症状であっても、ある日突然、粘液の過剰貯留により胆嚢が破裂するケースもあるため、中高齢のシェットランド・シープドッグ、コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザーなどの好発犬種や、膵炎、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病などの脂質代謝異常を起こす疾患を併発している動物では、特に注意しましょう。
胆嚢粘液嚢腫の治療は、内服薬による内科的療法と胆嚢摘出術による外科的療法があります。
一般的に内科的療法の治療成績は低く、将来的に胆嚢が破裂するリスクも考えると、外科手術がすすめられますが、周術期死亡率が高い手術のため、治療方針の選択は十分に理解をした上で決断する必要があります。
胆嚢粘液嚢腫について、不明点などありましたら、当院へご相談ください。
肝不全
犬と猫の肝不全は、肝疾患が進行し、肝臓の機能が正常に働かない病気です。
肝臓は体の様々な機能を担っているため、この機能に障害が起こると重篤な症状を示します。
ここでは、犬と猫の肝不全の症状、診断方法、治療方法、飼い主が気をつけるべき点について解説します。
疾患の症状
肝不全の症状は、様々な機能を担っている肝臓の機能障害によって現れる症状です。
主な症状は、食欲不振、嘔吐、下痢、体重減少、腹水や肝臓腫大による腹部の腫脹、黄疸、白色便、痙攣発作、止血異常など様々見られます。
これらの症状は、疾患が存在していてもすぐには現れず、病気が進行した末期に認められます。
健康診断などで定期的に検査をすることで、肝不全へと進行する前の初期段階で病気に気づくことが重要です。
また、仮に肝不全へ進行してしまっても、原因疾患を治療することで改善が認められる場合が多くあります。
診断方法
肝臓は様々な機能を持つため、病気の原因を的確に診断するためには、複数の検査を組み合わせて行う必要があります。
肝臓の検査で行われる一連の検査は、血液検査、尿検査、便検査、X線検査、エコー検査です。
必要であれば、血清胆汁酸、血液凝固検査、肝生検などの特殊な検査も追加されます。
血漿(血液分離したときの液体成分)が黄色く、黄疸が疑われる。
治療方法
治療方法は、肝不全をおこしている原因疾患により異なりますが、感染や自己免疫性の炎症を主体とする場合、内服薬による内科的治療が主流であり、腫瘍や門脈シャントの場合は手術による外科的治療が選択されます。
全ての肝疾患が、肝不全へ進行するわけではなく、原因疾患が改善されれば肝機能も回復することが可能であるため、適切な治療を受けることが大切です。
飼い主が気をつけるべき点
肝不全の予防方法は、初期に肝疾患を見つけ出し肝不全へ進行する前に適切な治療を開始することが主な方法です。
肝疾患が存在しても症状を示さない症例も多くあるため、症状がなくても定期的に検査を受け、早期発見を心がけましょう。
また、肝不全の症状は重篤なものが多くありますが、適切な治療を行えば症状の改善が期待できます。
愛犬愛猫の様子を観察し、体調の変化に早く気づけるように、しっかりと健康管理をしましょう。
肝疾患の詳しい検査や治療方法について不明点や気になることがあれば、お気軽に当院までご相談ください。
膵炎
愛犬愛猫に「食欲がない」「吐いている」「元気がない」などの症状はありませんか?
このような症状がある場合は、膵炎の疑いがあります。
膵炎は重症化すると大変危険な病気で慢性化すると命に関わりますので、ただの胃腸障害と決めずに、早めの処置が必要となります。
症状
膵炎の主な症状は、食欲低下、腹痛、嘔吐などが挙げられます。
軽症例では、軽度の腹痛や食欲不振を示す程度ですが、重症例では激しい腹痛や嘔吐、虚脱など様々な症状を示します。
また、膵炎を代表する典型的な症状として、前肢を床につけ後肢を立てた「祈りの姿勢」をとることが知られています。
犬では、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、糖尿病、猫では、胆管肝炎、炎症性腸疾患、肝リピドーシスなど他の疾患が併発すると、症状が重篤化しやすい傾向があります。
重度の膵炎は、きわめて重篤な疾患であり、非常に高い死亡率を示すため、慎重な対応が求められます。
診断方法
膵炎の症状は、軽症から重症まで様々な症状を示すため、他の疾患との鑑別診断が重要です。
診断には、食欲不振、嘔吐、腹痛などの症状を血液検査、エコー検査、X線検査、膵酵素検査などの検査から総合的に判断する必要があります。
様々な検査と大切な家族の症状と経過から、多くの情報を基に診断をするため、膵炎と診断されるまでに時間がかかる場合もしばしば存在します。
治療方法
膵炎の治療方法は、薬剤、輸液、栄養管理の内科的治療が主体です。
症状が重度である場合は入院治療による集中管理が必要ですが、一方、軽度の場合は通院治療で管理可能なケースもあります。
犬と猫の膵炎には高脂血症や高カルシウム血症などの誘発因子があることも知られており、このように潜在的な要因が明確な場合は、原因疾患の治療も重要です。
症状が重篤な重度の膵炎は、治療反応が悪く死亡率も高くなるため、徹底した集中治療が推奨されています。
飼い主が気をつけるべき点
犬と猫の膵炎は遺伝的素因が背景にあることが示唆されており、中高年齢の犬や猫で発生が多く、特に犬ではテリア種、ミニチュア・シュナウザー、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、コリー、ボクサー、ハスキー、イングリッシュ・コッカー・スパニエル、猫では短毛の雑種で発生が多くみられます。
犬では高脂肪食や暴食などの誘因が膵炎の引き金となる場合があるため、バランスの良い食生活が大切です。
高脂肪のおやつが膵炎の発症リスクを大きく上げていることが知られています。
特に膵炎のリスクが高い犬種では、おやつの摂取は控えるようにしましょう。
症状が軽度である場合は通院治療で管理可能なこともありますが、症状が激しい重度の膵炎は、その高い死亡率から入院治療が推奨されています。
食欲が全くない、元気がない、ぐったりしている、激しい嘔吐下痢、などの重い症状がみられたら、早急に動物病院を受診しましょう。
軽度の膵炎の場合は、症状がはっきりせず分かりにくい場合があります。
食欲にムラがある、食事を残す、などの軽微な体調の変化も見逃さないように、日頃から愛犬愛猫の健康管理をしましょう。
膵炎について、気になることや疑問点などがあれば、お気軽に当院までご相談ください。
【参考図書】
SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE FOURTH EDITION 上巻 ;interzoo